概要
前回はLDOの基礎知識を調べて終わりました。今回は今後特性などを計測するときに必要であろうシャント抵抗について調べてみました。
シャント抵抗とは?
シャント抵抗とは電流測定用の抵抗になります。回路の途中にいれて、その前後の電圧差を見ることで流れている電流を計算できます。通常のテスターなどの電流計と同じ仕組みになります。
1Ωの抵抗に1Vを加えると1A流れます。同じように1Ωの抵抗に1A流すとその抵抗には1Vが印加されていることになります。
印加されているということは、他の回路からすると電圧低下していることになります。既存5V回路に1Ωのシャント抵抗を追加して1Aを流したとすると、シャント抵抗に1Vが印加されるので既存回路には5Vから1V低下した4Vが印加されることになります。
測定する行為により、回路全体でみると抵抗値が増えるので既存回路から見ると電流も電圧も減る形にみえます。この影響を減らすにはシャント抵抗の抵抗値を下げる必要があります。
シャント抵抗R(Ω) | シャント抵抗での電圧低下(V) |
---|---|
1Ω | 1V |
0.1Ω | 0.1V |
0.01Ω | 0.01V |
0.001Ω | 0.001V |
0.0001Ω | 0.0001V |
仮に1A流れた場合に、シャント抵抗の抵抗値によってどれだけ電圧低下するのかが上記になります。ESP32の場合には3.3Vで動作させるので、1Vも低下したらおかしくなります。0.1V低下して3.2Vになるのは許容できる範囲かもしれません。
単純に抵抗値を小さくすればいいのかというと、また別の問題が発生します。
私が使っているオシロスコープのスペック表になります。最小のフルスケールが±20mVと書いてあります。つまり0.01Ωのシャント抵抗で1A流れた場合には0.01V(10mV)になって、オシロスコープの最小値より小さいので高い精度で測定することができません。
シャント抵抗(Ω) | シャント抵抗(mΩ) | シャント抵抗での電圧低下(V) | シャント抵抗での電圧低下(mV) |
---|---|---|---|
1.000Ω | 1000mΩ | 1.000V | 1,000.0mV |
0.100Ω | 100mΩ | 0.100V | 100.0mV |
0.050Ω | 50mΩ | 0.050V | 50.0mV |
0.020Ω | 20mΩ | 0.020V | 20.0mV |
0.015Ω | 15mΩ | 0.015V | 15.0mV |
0.010Ω | 10mΩ | 0.010V | 10.0mV |
0.008Ω | 8mΩ | 0.008V | 8.0mV |
0.005Ω | 5mΩ | 0.005V | 5.0mV |
0.002Ω | 2mΩ | 0.002V | 2.0mV |
0.001Ω | 1mΩ | 0.001V | 1.0mV |
よくあるシャント抵抗の値で計算し直してみました。私の環境ではこの中で1Aを流す場合を考えると0.020Ωの20.0mVぐらいの電圧低下が最小になりそうです。そのため赤字の0.1Ω、0.05Ω、0.02Ωが候補となります。
よく利用されているI2Cでの電流センサーにはR100と書かれた抵抗が使われています。Rは小数点を表すので.100となり、0.1Ωのシャント抵抗というのがわかります。これぐらいの値がやっぱり使いやすいようでした。
シャント抵抗値の電圧測定場所について
ハイサイド測定
実際の回路である負荷より電源側にシャント抵抗を入れるのがハイサイドと呼ばれます。この場合にはV1とV2の電圧差を求める必要があります。V1は5Vなどと固定されているように思えますが、実際には負荷により下がったりするので差動プローブか、2chのプローブを使って演算をする必要があります。
まちがってもV1やV2にプローブのGNDを接続してはいけません。GNDにショートさせたのと同じ動作になってしまいます。GNDを共通していないフローティング状態のオシロスコープであれば問題がないのですが、危険なので基本的には差動プローブか、2chのプローブを使うのが一般的です。
ローサイド
ローサイドは実際の回路である負荷のGND側に入れるタイプになります。シャント抵抗の下側はGNDのため電圧を測定する必要がありません。測定ポイントがV1のみになるのでシンプルに計測できます。
便利そうですが、実際のところハイサイドのほうがよく使われている気がします。ローサイドにした場合には本来の回路ではGNDだった場所に電圧がかかっています。若干の電圧ですが問題になる場合などがあるようでして、既存回路への影響はハイサイドの方が少ないようです。
気になる人は「シャント抵抗 ハイサイド ローサイド」などのキーワードで検索してみてください。
シャント抵抗の電圧測定方法
オシロスコープで測定
一番時間解像度が高い方法です。反面機材が高いのと、気軽に測定することができません。とはいえ、基本的な方法ですので、実験をしてみたいと思っています。
専用ADCを利用
シャント抵抗などの非常に低圧の電圧を測定するためのADCがあります。このようなADCを利用することで電流を簡単に測定することができます。ただし、I2Cのものは通信速度の制限などから非常に測定速度が遅くなります。今回のようなスパイクを測定することは難しいです。
SPI接続であればもう少し早くなりますが、あまり選択肢はないか結構高価なADCとなります。
アンプを利用
0.1Vなどの低電圧なので測定が難しいのであり、電圧をアンプで増加させてあげればマイコンなどの通常のADCで測定することができます。
電流センス・アンプという名前でINA180などが有名みたいです。
電流センス・アンプとは?
上記がINA180のページになります。
データシートをみるとハイサイドでもローサイドでも利用できるとあります。シャント抵抗の前後に端子を接続するとOUT端子から増幅された電圧が出力され、それをマイコンなどのADCで読み込む形で利用します。
I2C接続のINA219はこのアンプとADCがセットになっているものになります。INA180はアンプだけですので、他のものといろいろ組み合わせて利用することができそうですね。
ゲインとは?
INA180ではゲインが20、50、100、200とありました。これは倍率になります。0.1Vをゲイン20V/Vで測定すると20倍の2VとしてOUT端子から出力されます。
INA180はゲインが4種類の固定値ですが、LDOのように抵抗値を変更することで任意のゲインに設定できる製品もあります。しかしながら外付けの抵抗が必要なのと計算が面倒なので初心者は固定値の製品を使ったほうが安全だと思います。
部品販売サイトのLCSCで確認したところ、ゲインは50のものが一般的でした。つまり0.1Vをゲイン50で処理すると5Vの出力となります。比較的マイコンで処理しやすい電圧ですね。ただしESP32の場合には3.3Vまでしか測定できないのでゲインを下げるか、シャント抵抗の抵抗値を下げる必要があります。
ゲインとシャント抵抗値の関係
シャント抵抗(Ω) | シャント抵抗(mΩ) | 印加(V) | 印加 | ゲインx20 | ゲインx50 |
---|---|---|---|---|---|
1.000Ω | 1000mΩ | 1.000V | 1,000mV | 20,000mV | 50,000mV |
0.100Ω | 100mΩ | 0.100V | 100mV | 2,000mV | 5,000mV |
0.050Ω | 50mΩ | 0.050V | 50mV | 1,000mV | 2,500mV |
0.020Ω | 20mΩ | 0.020V | 20mV | 400mV | 1,000mV |
0.015Ω | 15mΩ | 0.015V | 15mV | 300mV | 750mV |
0.010Ω | 10mΩ | 0.010V | 10mV | 200mV | 500mV |
上記の関係になります。あくまで1Aまでを流した場合の表になります。2Aを流すと倍の印加になりますので、出力電圧も2倍になります。ESP32で1Aまでを測定する場合には赤い文字のところが使いやすそうです。
ゲインを一般的な50倍に利用すると20mΩで1Aの出力が1Vになります。50mΩで1Aが2.5Vになるので1.3Aぐらいまでは測定できそうです。もちろん100mΩを使っても0.6Aぐらいまでであれば3.3Vには収まります。
電流センス・アンプの問題点
帯域はゲインによって異なるのですがA2の50倍を見てみると210kHzとあります。
前回利用したPPK2は100kspsなので、PPK2の時間解像度は結構高くてアンプを利用してもそれほど高速化できなそうです。もう少しはやいアンプもありましたが、そこまで劇的に速度が変わるものでもないようです。
安価なアンプの場合には100kもでないのでオシロスコープで直接測定するか、これぐらいの時間解像度で諦めるかの選択になりそうです。
シャント抵抗の定格
ESP32の消費電力を計測するときに5Vの電源ラインにシャント抵抗をいれて、1A流れた場合にシャント抵抗で消費される電力はいくつでしょうか。これ最初間違って認識していたのですが、5Wではありません。
上記などで利用されているシャント抵抗の定格は1W前後だと思います。抵抗で必要な定格電力を計算する場合には抵抗と電力のみ利用して、電源電圧は関係ありません。
0.1Ωのシャント抵抗に1Aを流した場合には、そのシャント抵抗には0.1Vが印加されます。そのため電力は0.1V×1Aで0.1Wとなります。マージンとして倍の電力まで許容するとして0.2W以上の抵抗を選べば良いことになります。例えば0603サイズでも1/2W(0.5W)のシャント抵抗はありますので小さい抵抗も利用可能です。
まとめ
いろいろ遠回りをしてしまい、理解に時間がかかってしまいましたがわかってみるとシンプルなシャント抵抗でした。オシロスコープで計測する場合には0.1Ωぐらいが使いやすいかもしれません。抵抗値とアンプを変えて実際に実験をしてみる予定でいろいろ準備中となります。
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