概要
前回までにバイポーラトランジスタとMOSFETの基礎を紹介しました。今回から実際の回路を利用して学んでいきたいと思います。今回は基礎的な抵抗値についてです。
オームの法則
まず電子工作での回路でいちばん重要なのは抵抗です。抵抗の数値がおかしいとマイコンなどが壊れるので注意してください。とはいえ、公式とかを覚える必要はないと思います。自分を信じないで、ただしいと思われるサイトを信じてください。

たとえば、3.3Vのマイコンで30mAを流そうとした場合、上記のサイトで計算をすると110Ωの抵抗をいれればいいのがわかります。ここで重要なのは実際の計算式ではなく、どれぐらいの抵抗値だとどれぐらいの電流が流れるかの感覚をもっておくことになります。
電流 | 3.3Vのとき | 5Vのとき |
---|---|---|
0.001A(1mA) | 3,300Ω | 5,000Ω |
0.005A(5mA) | 660Ω | 1,000Ω |
0.01A(10mA) | 330Ω | 500Ω |
0.05A(50mA) | 66Ω | 100Ω |
0.1A(100mA) | 33Ω | 50Ω |
0.5A(500mA) | 6.6Ω | 10Ω |
1A(1,000mA) | 3.3Ω | 5Ω |
上記のような関係になります。ざっくりと、1,000Ωぐらいの抵抗を入れると数mAが流れるぐらいのイメージは持っておくと便利です。10kΩだとちょっと流れる量は少なすぎる感じですね。
LEDの抵抗
さて、一番入り口として抵抗の計算で利用するのがLEDです。LEDはダイオードでできているので、一方方向にしか電気が流れない素子になります。そして電流が流れすぎると壊れてしまう素子でもあるので、一定以上の電流が流れないように抵抗をいれます
抵抗値の決め方

こんなときに最初に見るのは秋月電子さんの商品ページです。ここでデータシートと使い方などのヒントを探します。LEDの場合には抵抗の計算方法というPDFがありました。
詳しくは資料を読んでもらいたいと思いますが、読むために必要な事前知識を書いておきたいと思います。このLEDは標準電流が30mAと書いてあります。

先程のサイトで計算をしてみますと110Ωです。しかし、実際に実験をしてみますとそんなに電流は流れません。これはLEDはダイオードでできていますので、一定電圧まではほとんど電流が流れない性質があります。
バイポーラトランジスタの場合には普通のダイオードでしたので、0.7V前後だったと思います。LEDの場合には更に光っている分の電圧があるのでさらに高い電圧が必要となります。その電圧は順方向電圧降下と呼ばれVFと書かれています。このLEDは2.1Vですね。このVFを電源電圧から引いて計算する必要があります。

3.3Vから2.1Vを引くので1.2Vに対して30mAを流す抵抗は40Ωになりました。

実は秋月電子さんでも計算用のページがありますが、検索でひっかかるのですがどこからリンクされているのかはわかりませんでした。

Digi-keyさんでも計算するためのサイトがありました。いろいろなサイトで便利なページがありますので、自分が使いやすいと思ったサイトを見つけておくのがおすすめです。
実際の抵抗値
さて、先程までに3.3V電源で、VFが2.1VのLEDを30mAで光らすのには40Ωが必要だとわかりました。しかし実際の回路では30mAはかなり明るい光なのでもう少し大きな抵抗を使う事が多いです。
とりあえず1kΩを入れてみて、暗かったら考えるみたいなことが多いかもしれません。。。とくにLEDの場合には抵抗値が大きすぎると暗くなるか光らないかで、LEDが壊れることはありません。電流を流しすぎると壊れてしまうので、ある程度大きな抵抗の方が安全です。
ワット値にも注意
最近のLEDは十分に明るいので定格より少ない電流で使う事が多いですが、赤外線LEDなどの場合には定格で使うことが多いと思います。この場合にはワット値にも注意が必要です。

さて、上記の私も使ったことがある赤外線LEDに5V電源につなげて定格の100mAを流してみた場合の計算をしてみたいと思います。今回VFは100mAを流すので1.8Vで計算してみます。

上記のとおり、32Ωの抵抗が必要になります。

一般的に32Ωの抵抗はありませんので、それより大きい33Ω抵抗を利用します。これはE系列という1から10までを等比級数で分割した値で準備されています。
- 抵抗器の表記(KOA)
興味のある人は上記などの情報をもとに調べてみてください。
さて、33Ω抵抗の選定のしかたですが、上記の抵抗は実は利用することができません!

先程の計算でワット数も書かれています。0.321Wですね。抵抗を33Ωに変更したので、ワット数も若干へります。

上記によると0.310Wですね。

製品をみてみると1/4Wです。つまり0.25Wになります。この抵抗に0.31Wを流すので定格を越えているのがわかります。

実は同じ会社から、同じ価格で同じサイズの1/2W(0.5W)定格の抵抗があります。こちらであれば0.5Wに対して0.31Wですので定格以下での利用になります。ただ、この抵抗でも定格の半分以上で利用しているのであまり余裕はありません。本当は定格の半分以下で使うようにしたほうがいいようです。興味がある人はディレーティングで検索してみてください。
とはいえ、リモコンなどの赤外線通信などであれば常に光っているわけではないので、これぐらいの余裕があればなんとかはなると思います。ちなみに1W抵抗ですと秋月電子さんですと3倍前後の価格差がありますが、そんなに高い部品ではないのでなるべく定格が高いものがおすすめです。ただし、定格が大きいものは太さなどが若干かわります。
また、チップ抵抗の場合には定格が大きくなるとチップサイズもかなり変わってくるので注意してください。私がいつも使っている抵抗は0603は1/10W、0805は1/8W、1206は1/4W、1210が1/2Wでした。
抵抗サイズ | 定格 | 3.3Vのとき | 5Vのとき |
---|---|---|---|
0603(1608M) | 1/10W(0.1W) | 30.3mA | 20mA |
0805(2012M) | 1/8W(0.125W) | 37.9mA | 25mA |
1206(3216M) | 1/4W(0.25W) | 75.8mA | 50mA |
1210(3225M) | 1/2W(0.5W) | 151.5mA | 100mA |
上記がVFを考慮しない場合に流すことができる電流値になります。今回の赤外線LEDだと5V電源でVFが1.8Vですので3.2Vぐらいの電圧になるはずです。(実際にはVFは個体差や電流によって変わります)
これをみると、よく使われている0603(1608M)サイズのチップ抵抗は30mAは流せそうですので、マイコンで使う分にはそれほど困らないと思いますが、大電流の負荷がかかる回路に利用してしまうと簡単に定格を越えてしまいそうです。
バイポーラトランジスタで赤外線LEDを光らせてみる

上記のような回路になります。このR1とR2の抵抗値を計算してみたいと思います。まずINのさきにつながっているマイコンを3.3VのESP32と仮定します。
R2(LEDの電流制御)の計算
R2はLEDに流れる電流を制限するための抵抗になります。ここは負荷であるLEDに流したい電流からそのまま計算することができます。

上記の通り32Ωになります。実際にはこれに一番近い33Ωを採用します。
R1(ベースに流れる電流制御)
R1はNPNトランジスタのベースに流れる電流を制御するための抵抗になります。これはコレクタ、エミッタ間に流れる電流から計算することができます。

今回回路図で使っているNPNトランジスタは上記になります。直流電流増幅率が180から390倍になっています。おおむねこの手のスイッチング回路では定格の半分以下で利用しますので90倍以下であれば問題なさそうです。余裕をみて50倍にしたいと思います。

このような関係になると思います。コレクタ、エミッタ間に100mAを流すために、倍率50倍だとベースに2mA以上を流す必要があります。

上記のように1,650Ωとすると計算失敗です。ベースからのエミッタに電流が流れるためにはダイオードを乗り越える必要があります。

0.7VのVFだとすると上記のように1,300Ωとなります。
実際のところ?

R1のベースは1000Ω(1kΩ)を入れておけば大抵の場合には問題ありません。おそらく2mA以上流れますが、多くのマイコンで数mAであれば問題ありません。R2は正しく計算する必要があります。概ねトランジスタは70倍以上の倍率を持つので2mA以上のベース電流があれば100mAぐらいは問題なく流れます。
もし10kΩだと0.26mA前後の電流になるので、倍率上限である390倍であれば100mAも流れます。ただし、トランジスタは結構個体差があるので、実際に流せる倍率には幅があります。温度でも変わってきますし、流す電流によっても変わります。仮に200倍で52mA程度しか流れなかったとしても回路的には動いているように見えてしまいます。
目的の半分しか電流が流れていませんが、動いている回路の場合には思ったより暗かったなとスルーしてしまうことが多いです。そして限界条件で利用しているので個体差や、温度変化などによって差がでたり、故障しやすかったりします。
MOSFETで赤外線LEDを光らせてみる

上記のような回路になると思います。
R2(LEDの電流制御)の計算
こちらはバイポーラトランジスタのときと変わりません。厳密にはドレイン・ソース間には抵抗が存在しています。

上記のオンセミのBSS138だと0.7Ωあります。

同じ型番ですがパンジットのBSS138だと1.6Ωもあります。この抵抗を加味しても33Ωからそれほど変わらないので33Ωで問題ないと思います。
R1(ゲートに流れる電流制御)
MOSFETのゲートは電圧で制御するので、寄生容量を充電するための速度に影響します。そのため最悪必要ないのですが、PWM制御などでばたばたと信号レベルが変更されるとリンギングが発生するおそれがあります。
リンギング防止には100Ω以下の小さい抵抗でもよいのですが、ノイズの影響を減らす抵抗でもあります。ここに抵抗があるとノイズの影響を受けても電流が流れにくいので、ノイズに強くなります。
実際のところ?

LEDには計算して出した33Ω、ゲートにはとりあえず1000Ωを入れておけば問題ないと思います。あとトランジスタのときもそうですが、プルダウン抵抗に10kΩをつけておくとより安全です。
とりあえず1kΩって本当?
大抵の回路ではとりあえず1kΩを入れておけば動くと思います。しかしながら、ちゃんとした計算方法があるので教科書やデータシート、アプリケーションノートなどを読んでちゃんと学ぶほうがいいと思います。
LEDと抵抗の位置関係

回路図的にはどちらでも構いません。微妙にノイズの影響とか、高速動作した場合の影響とかがあるみたいですが、普通の用途では変わりません。
ただし、これが実際にレイアウトするときには結構差があります。

たとえば上記はIOの出力をオレンジのLEDで表示する回路が左側にあります。この場合はGND←抵抗←LED←IOの順で並んでいないとIOとLEDの間に抵抗が来て、LEDの距離が離れてしまいます。このようにレイアウト上の都合でどちらかがいいのかが決まる事が多いと思います。
まとめ
抵抗は用途に応じて考え方がことなるので、前回までの内容を踏まえながら計算をする必要があります。正確な計算をするためにはこのブログの内容だけだと足りないと思いますので、別途ちゃんとした書籍なりを使って勉強してみてください。入門向けの教科書であればなんとなく理解できるようになってきていると思います。
趣味で電子工作をするのであればとりあえずの1kΩになります。基板を作成するときにも厳密に計算した抵抗以外はシルクに定数を書かずに、現物合わせで抵抗を入れ替えたりするのも趣味ならではだと思います。
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